可愛いコト 愛する君へ

お誕生日おめでとう。
君が俺の代わりにきつね面をやるようになってから、随分過ぎたなぁ。 あのお転婆てんばだった君が神社の調停員ちょうていいんとして立派に機能していると思うと、そだてた俺も鼻が高い。 俺に言われるとしゃくかい?まぁ、君も知っているとは思うが、こういう言いかたくせなんだ。 どうしようもないものを思って、勘弁かんべんして欲しい。
何年か前に、あのきゅう校舎こうしゃが取りこわしたなぁ。 君も一緒にけんぶつしたから、覚えれるだろう。 あそこは俺たちにとってもとても思い出ぶかい場所だし、俺自身も気に入っていたから、非常に残念だったけど。 でも、仕方がない。 実際古かったし、俺達は特例だったってだけだ。 あそこから出て行くことになった時、荷物をまとめながら、君がずっと子供だったの頃のことをあれこれ思い出した。 俺の過ごしてきた時の中で、もっとも美しかった瞬間の一つだ。 俺にあの時間をくれた君にも、感謝している。
前置きは長くなったけど、その時はこれを見つけた。 俺にとってもすごく懐かしいものだ。 手元に閉まっておこうかと思ったけど、いろいろ考えた結果、君に進呈することにした。 少しでも好奇心の助けになってくれれば嬉しい。
書いてあることについては苦情があっても、もう時効だ。 怒らないでくれよ。それじゃ、これからの人生も大いに楽しんで、今後の君がより一層輝くことを願う。

父より

ー京騒戯画・ドラマCDー

ー神社在住記・育児録ー

はじめに、覚書として、神社に戻ってから、こっち、なんとなく日記をつけることがためらわれていたが、久方ぶりに再び筆を執ってみることとした。 以前のように長く続くか分からないが、気の向くままに、日々の出来事を書き連ねて見ようと思う。 今の体に変わった以来、特に変化らしい変化というものもなかったが、最近はあまり夢は見なくなった気もする。偶然?

ー1月某日ー

今日は何もなかった。

ー1月某日ー

今日も何もなかった。

ー2月某日ー

書くことが何もないから、日記やめてもいい気がしてきた。

ー3月某日ー

留守中にやってきたカツラとうったのに、日記を盗み見される。ほどんど一ヶ月間何も書くことはないと毎日書いていたことを笑われる。なんだかしゃくだ。

ー3月某日ー

書くことのない日は、円周率でも書き連ねて見ようと思ってる。早速今日から始める。3.14159265358979323846264338327950288419716939937510……

ー5月某日ー

再び日記がラボの連中に盗み見される。円周率のかなりの量がたまったので、今度はなんの文句も言われなかった。いつもふざけた顔の一乗寺もやけに神妙な顔でこちらを見つめていた。俺の律儀さに感心したのだろう。

ー5月某日ー

兄さんに呼び出されて、執務室へ赴く。怒られるのかと思ったが、特になんでもなかった。世間話がしたのなら、別の場所にして欲しい。たまたま、猫も連れておらず、特に話すこともないので、延々天気の話をするはめになった。それにしても、あの側近は随分俺が嫌いらしい。睨むのはいいけど、もう少し気を使って睨んだらどうだ。出されたお茶はうまかった。新茶とのこと。かつて住んでた寺を思い出す。

ー5月某日ー

最近、やたらとラボの連中が茶やら散歩に誘ってくる。しかし、俺もそんなに暇ではないので、断る回数のほうが多い。悪い気もするが、仕方ない。

ー6月某日ー

だらだらと時間ばかり流れる。憂鬱。一人はなれていると思っていたが、生物として別科か。憂鬱。

ー7月某日ー

子供達は元気だろうか。賑やかな訓練校の子供達を眺め、ふとを思い出す。今度会えるのはいつになるやら。元気だといい。まぁ、彼らは元気でしかないのかもしれない。

ー7月某日ー

子供達の書いていた絵やら歌やらをいくつか持って来ていたことを思い出し、見を探る。八瀬の下手な絵も、こうして見ると悪くはない。今度は褒めてやれると思う。

ー8月某日ー

暑くて何もする気が起きない。夏が嫌い。

ー9月某日ー

暑すぎる。食欲がなく、毎日蕎麦ばかり食べている。当然のように体調を崩した。猫が全く調子を崩す気配がないが、翌々考えて見れば、彼らの主は未だに兄さんなので、俺の体調が影響しないのは当たり前だ。今日も寝ている俺の傍らで、たらふくアイスを食らっていた。のんきなものだ。

ー10月某日ー

休みをもわい、久しぶりに高山寺へ赴く。ここからはだいぶ距離があるので、早朝から移動。こちらは肌寒く、薄着で来たことを後悔する。兄さんから聞いていた通り、管理人が時々手を入れてくれているようで、思っていたより人の気配があった。本堂から見える山の紅葉を眺める。まだ本番ではないが、美しい。何となく、俺と同じようにここから紅葉を眺めていじける息子のことを思ったが、どうだろう。

ー11月某日ー

飽きない貴族達からは久々に嫌味を言われる。こういうところは昔から変わらない。そういうものだと思いつつ、何となく気怠い。

ー12月某日ー

訓練校のゴミ捨て場に、本が積まれていた。図書館の本の入れ替えだろう。適当に一冊拾ってくる。最後にあった紙に惹かれる。

ー12月某日ー

今年も猫が肉やらケーキやらを持って、部屋にやってきた。靴下を目の前にぶら下げられたので、五円ずつ入れてやる。不服そうに文句をいう割に、顔がまんざらでもないのは、ここが神社だからなのか?ラボの連中も呼んでもいないのに、あとからやってきた。騒がしい。

ー1月某日ー

寒い。心底冬が憎い。休日だし、特に何が予定があるわけでもないので寝て過ごしていると、うさぎに子が生まれると騒ぎになる。自分の連れの話とわかり、大変驚く。

ー1月某日ー

コトが産んた子を向かいに行く。再会。不思議と、昨日会ったばかりのように気もした。お願いしますと一言を告げられる。変わらぬ笑顔愛しく思う。

ー1月某日ー

娘の名前をコトとした。

ー2月某日ー

ラボに顔を出す。カツラがコトを抱いて迎えてくれた。久しぶりの娘。相変わらず、何を考えているのか分からない。起きている時に来ると、自分と同じ色の目でじっと見つめられる。居心地悪し。ラボの連中はコトの様子に一喜一憂。こんなことを言うと怒られるかもしれないが、多分俺は赤ん坊が苦手。

ー2月某日ー

兄さんと妙によく会う。娘について色々しつこい。何なんだ。カツラに任せてあるので、細かいことはよく分からないが、最近よく笑うような気もする。

ー3月某日ー

赤ん坊が短い間でも変化が目まぐるしい。面倒なばかりだと思っていたが、愉快な面もあると知る。

ー11月某日ー

任務中、コトが立ち上がったとカツラから興奮気味に連絡を受ける。忙しかったので適当にあしらうと、すごく怒られた。

ー12月某日ー

コトを連れて散歩。特に行くところもなく、いつもの丘へ。ここに誰かに連れて来たのは初めて。放っておくと勝手にどこかへ行こうとするので、胸に掻き抱いたまま、街を見つめて過ごす。風はあったが、コトが暖かかった。

ー1月某日ー

コト、一歳の誕生日。天候をお願い、みんなで餅をつく。

ー4月某日ー

コトを自宅に引き取る。この数年間、ラボで可愛がりすぎたためか、随分人見知りになってしまった。

ー5月某日ー

最近隠れてよく泣いている。今まで以上に俺にくっついて離れなくなった。理由を聞いても何も言わない。大体見当はつくが、どうしたものか。

ー5月某日ー

母親について聞かれる。思わず、お母さんはうさぎだと言ってしまったが、冗談と取られて怒られた。これまでのことを話すには、まだ彼女は幼すぎるが、いつか打ち明けられるだろうか。

ー6月某日ー

コトがあまり泣かなくなった。何があったのかは不明だが、ホッとした。根拠の無い自信に溢れている様子は、妙に母親に似っている。

ー10月某日ー

絵の部屋の鍵が閉まった場所から少しずれていた。コトが覗きに行ったのだろう。本人は部屋のことを自分から聞く気はないらしい。何を持っているのか聞いてみたい気もするが、今は成り行きに任せることとする。

ー1月某日ー

突然パパと呼ばれる。あまりに自然だったので、いつも通り返事をしてしまったが、気づいてからはとても驚いた。誰かに聞いたのかとも思ったが、彼女にとって、俺が本当の父親かどうかという事実はあまり意味を成さないのかもしれない。

ー1月某日ー

ラボの連中にそれとなく俺の話をしたかと聞いてみた。全員が「どうしてそんな他人の込みいた事情を自分が伝えなければいけない」という顔をしていた。

ー2月某日ー

コトから贈り物。手作りとのこと。食べてみると炭だったので、バレンタインは炭ではなく、チョコを渡す一を教える。冗談のつもりだったが、大いに機嫌を損ねる結果となる。包にお気に入りのシールを貼ってくれていた。捨てずに取っておく。

ー3月某日ー

兄さんたちも見に来るので、今年も空き教室に雛人形を飾る。コトが喜んでいるが、場所は場所なので、何とも不気味。

ー4月某日ー

予定より、早く上がれたので、学校にコトを迎えに行く。教室にいなかったので、目つきの悪い生徒を捕まえて尋ねる。員会があるとのこと。お礼を言う前に、逃げるように去っていた。あとから八幡家の息子と分かった。何もしていないのに嫌われるのが俺の特技らしい。

ー4月某日ー

将来の夢について作文を書き、親に聞かせるという宿題に付き合う。大きくなったらパパと結婚するという胸について、ハキハキと述べてくれた。どこまで本気か、定期的に確認していきたい。

ー4月某日ー

将来の夢がママと結婚するに変わっていた。

ー5月某日ー

コトが季節外れの風邪をひく。高熱、食欲もない、小さいな暑い塊を抱いて眠る。早く良くなるといい。

ー5月某日ー

コトの風邪が移り寝こむ。珍しく夢を見たが、悪夢だった。起きるといつの間にかコトが布団の中にいた。ラボに預けていたのに、勝手に抜け出して来たらしい。食事を持っていたカツラも驚く。怒ろうかと思ったが、結局怒れずに終わる。

ー7月某日ー

コトが式を連れて帰ってくる。名前に悩んでいると相談を受けていたので、阿吽と提案。意味を聞かれたので、始まりと終わりと答える。無意識に出てきた言葉の持つ意味に、自分でも驚く。名前はそのまま採用された。 同じことを伝えて、別れた義理の息子のことを思い出す。

いつか、この子が、彼ら兄弟と出会うこともあるのだろうか。 今はただ、そのいつか起こる日を楽しみに待ちたい。


稲荷:石田彰